大規模修繕にかかる工事期間はどの程度? 着工前の計画段階も含め、一般的な目安をご紹介
大規模修繕に要する工事期間は、建物の規模や細かな工事内容の違いにより、大きな差が生まれます。着工前の計画をおしすすめる際にかかる期間、実際の工事にかかる期間など、検討しておくべき期間の話題についてまとめて解説します。
大規模修繕を実施する際には建物の修繕箇所や予算などの事項のほかに、実際にどのくらいの工事期間を要するかという点も大変重要なポイントとなります。工事期間は、アパートやマンションの住民の方々の生活・過ごし方に直接影響する部分でもあります。
本記事では大規模修繕の工事期間について、様々な目安をまとめてご紹介しています。
「大規模修繕」に該当する工事内容とは?
「大規模修繕の工事期間」と聞くと、その名からとても範囲や規模の大きい工事のみであると想像し、工事期間も数か月〜1年超えなどが当たり前なのでは? とイメージされる方もいらっしゃるかもしれません。
もちろん、建物の規模や工事内容によってはとても長期の工事期間となることもありますが、一方で一か月以内に完了するような大規模修繕の事例も多くあります。
実は、大規模修繕とは必ずしも建物全体に関わる大工事であったり、作業者が何十人も必要となる規模であったり、というわけではないのです。
どのような工事が「大規模修繕」にあたるかは、建築基準法で定義されています。当該法令では大きく2つの定義がなされており、ひとつは「建物の主要構造部における、一種以上について過半部分に対する修繕」、そしてもうひとつは「建物の主要構造部における、一種以上について過半部分に対する模様替え」です。
建物の主要構造部とは、アパートやマンション、ビルや施設の根幹部分となる壁や柱、梁や床、屋根などといった、「その部分がないと建物として成立しない」ような部分のことを指します。逆に主要構造部にあたらない部分としては、建物内部の間仕切り壁や、間柱、ひさしや屋外設置の階段などがあります。
主要構造部の一種に対して実施するだけでも大規模修繕にあたるため、例えば「屋上部分の60%ほどに防水工事をおこなった」というような場合も、建築基準法上の大規模修繕となります。
工事をおこなうアパートやマンションなどの建物自体は2階〜3階建てといった小規模で敷地面積が小さめなものも含まれることを考え合わせると、一か月以内の日数で完了する大規模修繕も多くある、ということが具体的にイメージいただけるかと思います。
大規模修繕の詳しい定義などについては、建築基準法の第二条第十四号、および第十五号で確認できます。ご興味のある方は、ぜひ下記リンクから詳細をチェックしてみてください。
※参考:e-Gov 法令検索「建築基準法」
https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000201
大規模修繕の計画から着工までの期間
建物の大規模修繕を検討する際には、工事そのものにかかる期間とは別に、「計画から実際の着工まで」にかかる日数も検討しておくことが大切です。
実は、大規模修繕においては実際の工事期間よりもこの計画〜着工までの期間のほうが概ね1年以上と、長めになることも一般的です。工事自体は例えば壁部分のみ、など建物の一部に留まることがある一方で、計画についてはどのような場合でも一定以上の、それぞれ日数を要して関与者も異なるような複数の段階を踏むことになるからです。
「計画から実際の着工まで」というのがどのようなことのために必要な期間かというと、具体的には以下のような内容となります。
修繕委員会を設置し、計画を立てる
大規模修繕を計画するにあたっては、通常の理事会とは業務目的が異なる委員会として、住民で構成された「修繕委員会」を設置することが一般的です。
例えば理事会の下部組織として、主要メンバーが一部重なるかたちであっても修繕に関する業務専門の会として修繕委員会を立ちあげたうえで、建物の工事内容や予算を審議したり、住民向けの説明会を実施したりすることを前提として活動を開始します。
発注形式を決定する
大規模修繕では、住民のみですべての事項を検討したり調査したりといったことはなかなか難しいため、どうしても専門知識や経験を有する外部の専門家との契約が必要となるでしょう。
この観点で考えると、発注形式は「責任施工方式」と「設計管理方式」の二通りが考えられます。前者は修繕を担当する施工事業者に事前準備から工事までの一切をまるごと委託するかたちで、後者は修繕計画の管理やアドバイスを外部コンサルタントに依頼するかたちです。
依頼費用としてかかる金額や打ち合わせにかかる日数・手間といった総合的なコストを考え合わせながら決定しましょう。
建物診断や調査をおこなう
実際的な修繕計画を立てたり、見積もりを立てるためには建物の老朽化の状況や故障個所など、現状を正確に把握しておく必要があります。
そのため、専門の調査員に訪問してもらい、目視および専門機械などの手段で調査を実施します。
この診断・調査についても、専門のコンサルタントに依頼する場合と、施工事業者にまるごと依頼したり、紹介してもらったりという場合があります。
いずれの場合でも厳密な調査を実施し、建物について早急に修繕が必要な部分とそうでない部分、修繕しなかった場合の影響の度合いなどを正しく切り分けておきます。
修繕計画と予算を審議する
診断・調査を経て建物の現状が把握できたら、実施すべき工事内容やかけられる期間・予算などについて審議します。
修繕が早急に必要な箇所を最優先としつつ、第二優先、第三優先にあたる箇所なども長期的な計画として組み入れるか、予算の割合をどうすべきかなど総合的に検討しつつ、例えば修繕積立金だけでは不足しているような場合には融資を受けるといった方法も視野に入れ審議を進めます。
施工事業者を選定する
修繕計画が固まったら、施工事業者の選定に入ります。
専門紙やWebサイトなどのメディアで情報を収集したり、設計管理方式でここまで進めている場合には当該コンサルタントに相談したりしながら、施工事業者の候補としてまずは数社を選定しておきます。
それらの事業者に相見積もりをとりながら、各社の提案内容をヒアリングしつつ比較検討していきます。
事業者を比較する際には、見積もりの額だけでなく過去の施工実績や信頼度、評判、担当者とのやりとりのしやすさ、細かな部分の相談のしやすさなども確認しながら絞り込んでいくとよいでしょう。
総会で合意を得る
組合員を集め総会を開催したうえで、今回の修繕工事内容や予算、施工事業者や、それらの決定理由など詳細を説明し、合意を得ます。
修繕費用は組合員および入居者からの修繕積立金でまかなわれることが基本となるため、質問や懸念点が少しでも出た場合は随時対応し、解決しておきます。
施工事業者と契約する
総会で合意を得られたら、施工事業者と正式に契約を交わします。
工事説明会を実施する
施工事業者との契約が済んだ段階で、入居者に対する工事説明会を実施します。
工事説明会では、施工事業者の担当者から入居者に対して、あらためて工事の内容や期間中の過ごし方・使えなくなる設備や注意点など総合的な説明をしてもらいます。
工事説明会において入居者から過ごし方などについて要望を受けた場合には、対応可否をその場で施工事業者とすりあわせしながら、対応策を検討していきます。
大規模修繕の着工から工事完了までの期間
大規模修繕工事の着工から工事完了までの期間については、建物の規模や工事内容によって大きく異なり、前述のように例えば30日程度で済むこともあれば、1年以上の長期的な工事になることもあります。
ここではご参考までに、一般的な大規模修繕工事(壁や屋上など複数個所で施工)における大まかな目安をご紹介します。
詳しくは、外部専門家への相談や施工事業者への見積もり依頼時にも確認しておきましょう。
・小規模(50戸未満、5階建て未満など)の建物……工事内容によっておよそ1か月~3か月など
・中規模(100戸未満、10階建て未満など)の建物……工事内容によっておよそ4か月~半年など
・大規模(100戸以上、高層など)の建物……工事内容によっておよそ半年~1年以上など
個別の工事期間目安
大規模工事を実施する際には、工事期間の中で複数の工程がふまれます。
各工程における個別の期間についても、細かな工事内容や建物規模によって違いがありますが、ここではおおよその目安をご紹介します。
仮設工事・足場仮設
小規模な建物であれば数日〜10日前後、100戸を超えるほどの大規模な建物であれば数週間〜一か月弱ほどの期間を要します。
下地補修・シーリング
コンクリート部分のヒビ割れや外壁タイルの損傷がある場合の下地の補修、および樹脂やシーリング材の充填などの作業工程で、2週間〜1か月程度の期間を要します。
防水・外壁塗装
本工事にあたる工程となり、細かな発注内容の違いや使用資材などによって最も期間に幅が生まれる部分となりますが、おおむね数週間から数か月程度の期間を要すると考えておきましょう。
大規模修繕の準備はいつから始めればよい
国土交通省が公開している、マンションなどの大規模修繕に関係するガイドラインにおいて、修繕計画については「30年以上で、大規模修繕工事が少なくとも2回」といった、ひとつの目安としての提示がなされています。
こういった目安も参考に、建物の実際の状況や予算、住民からのニーズなども踏まえながら大規模修繕工事の周期を検討し、ここまでご紹介した各工程の所要日数を踏まえながら準備開始の時期を決定しましょう。
大規模修繕においては、計画立案から着工、完了まで含めてすべての工程を円滑に進めるために、準備期間から早めに施工事業者やコンサルタントといったパートナーを決め、専門的観点を交えて話し合いを進めておくことが大切です。
※参考:国土交通省「長期修繕計画標準様式 / 長期修繕計画作成ガイドライン / 長期修繕計画作成ガイドラインコメント」
大規模修繕の工事前・工事期間中によくある懸念点と対策
最後に、大規模修繕の計画時や実施時にしばしば生まれやすい懸念点と、その対策についていくつかご紹介します。
まず、計画の初期段階で修繕委員会を設置して話し合いを進めている段階で、「委員会内で意見がうまくまとまらない」というケースがあります。修繕積立金を主とする一定の予算について、使われ方が正しいのか、また修繕箇所の優先度はどうなのか、といった点などです。
これらの点については、外部の専門家と早い段階で連絡をとり、建物の実際的な調査をおこないながら専門的な観点をまじえておくことが対策となるでしょう。
また、施工事業者との契約段階や実際の着工において、「工事開始後に施工箇所が増えて、予算を超えてしまわないかが心配」といった声もよく聞かれます。この点については相見積もりをとりながら信頼のおける施工事業者を厳選し、真摯にあらゆる可能性を踏まえた説明をおこなってくれる事業者を選ぶことが対策となります。様々な施工実績を積み、専門的な観点をもつ事業者であれば、想定外の事態が起こった場合なども考え合わせたうえで総合的な見積もりを出すことが可能です。
さらに、「工事前に、仕上がりをどこまで具体的にイメージしながら検討できるか」という懸念も、専門的な知識を持たない住民の方などからよく挙がる声です。
この点についてもやはり施工事業者の対応品質が直接的に影響する部分で、施工事業者のホームページで掲載されている工事種類ごとの施工事例写真や、見積もり時の別途作成資料などで、修繕委員会や住民説明会などでも具体的にイメージを伝えやすい資料を揃えられるかどうかがカギとなります。
担当者の対応の細やかさなども含め、長く付き合う相手として信頼できる事業者を選ぶようにしましょう。
大規模修繕の工事期間や工事内容を具体的に検討する際には、専門家へご相談を
アパートやマンション、業務施設といった建物で大規模修繕工事を計画する際には、あらかじめかかる予算や工事期間の検討、修繕が必要な箇所や優先度の判断などを正しくおこなっておく必要があります。建物の組合や委員会の方々のみで判断できない部分、下調べが困難な部分などについては、ぜひ修繕専門店へお気軽にご相談ください。