建物の防水工事にはどのような種類がある? 特徴や耐用年数目安をご紹介
マンションやアパート、工場などの建物で防水工事をおこなう際には、施工する箇所や目的などによって、いくつかの選択肢のなかから適切な工法を選ぶこととなります。本記事では代表的な防水工事の種類を、それぞれの特徴とともにご紹介します。
降水量が多く、また台風の進路となってしまうことも多い日本においては、建物に定期的な防水工事をおこなっておくことが大切です。適切な工法で防水工事をしておけば外部や内部の劣化を最低限に抑えられ、建物の寿命をのばすことができます。
本記事では、一般的な防水工事の種類について、概要や特徴などを解説しています。
そもそも防水工事とはどのような修繕?
アパートやマンション、ビルや工場施設など様々な建物において、必要に応じた防水工事がおこなわれます。
この「防水工事」は雨水が建物の内部に侵入してしまうことを防ぐための工事となり、主に建物の屋上部分でおこなわれますが、ベランダやバルコニーが雨風にさらされやすい状況の場合には、そういった箇所に対してもおこなわれます。
雨水の侵入防止と聞いて、各箇所の床部分にだけ防水を施すというイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、例えば外壁にヒビ割れなどの劣化部分がある場合、雨風がそこからも侵入してしまいます。したがって、防水工事をおこなう場合は外壁も含めた全体に渡って工事をおこなうことが一般的です。
実際に工事を計画する際には、建物の各部の状況、補強の必要性や予算などによって、後述するような塗装防水、シート防水やアスファルト防水など様々な工法が選択されます。
マンションやビルなど大きな建物で防水工事が必要になる理由
一般的に、ビルやマンションの屋上部分で戸建て住宅ほどの勾配がつけられているケースはそう多くはありません。また、工場施設や事業用の建物であっても、屋上部分は最低限の排水をおこなうための緩やかな傾斜がつけられている程度で、人間が活用できるスペースとして維持できるようにあえてほぼ平らに近くなっている、という状況が一般的です。
そのため短時間での完全な排水は難しく、降水量の多い時期にはどうしても一定時間以上、雨水が屋上部分にとどまってしまうことになります。
雨水が屋上にとどまり続けてしまうと屋上の床部分のダメージが蓄積されるだけでなく、建物内部への雨漏りや、ひどい場合は建物の構造部(柱や梁、階下の部屋の床部など)にまで水が浸透してしまうという状況も発生します。
「木造住宅ではなく鉄筋コンクリートの建物なので大丈夫」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかしコンクリートは木造と比較して堅牢さや耐久性は期待できるものの、「ヒビ割れが発生しやすい」という特徴もあります。
コンクリートはもともと水と砂やセメントなどを混ぜることによって作られており、建物として完成した後も、常に一定の水分が含まれています。この水分が外気の変化の影響を受け蒸発することより、コンクリートの「乾燥収縮」が起こり、ヒビ割れにつながります。
コンクリートのヒビ割れは屋上の床部分など見つかりやすい部分に発生することもあれば、建物の構造部など目につきにくい部分で小さく複数個所、起きてしまっていることもあります。このヒビ割れ部分からもし雨水が侵入してしまうと、コンクリートの中性化(二酸化炭素が侵入し、コンクリートの性質が強アルカリ性から中性に変わってしまうこと)が起こったり、その影響で鉄筋部分の皮膜が破壊され腐食してしまったり、といったように、建物の寿命や耐震性に直接影響する事態につながりかねないのです。
建物では雨水による影響が一度でも起こってしまうと、「少量の水の浸透→鉄骨部分の腐食→鉄骨部分のサビが大きくなることによって建物内部からの膨張→さらに周囲でコンクリートのヒビ割れが広がる→雨水の浸透経路が増えてしまう」というように、悪循環が起こってしまいます。
そのため、常に適切な防水を施しておくことが重要です。
例えば新築時に施されている防水工事の種類を確認しておき、その工法の耐用年数や建物の構造、目で見える範囲でのコンクリート部分の変化などを考え合わせながら、適切な時期に防水工事を重ねていくことが大切です。
防水工事は建物のどのような箇所でおこなう?
前述のように、マンションやアパート、ビルなどの建物に防水工事をおこなう際には、一般的に屋根や外壁、ベランダやバルコニーといった部分が多くなります。
ただし、雨風など外部からの影響だけでなく、建物内にもともとある水回りの設備に破損や故障、劣化などがあるとそこから建物の構造部分に浸水してしまう可能性もあります。そのため必要に応じて、キッチンやトイレ、シャワールームや浴室といった室内設備周辺の防水工事も定期的におこなう必要があります。
防水工事で選択される主な工法
実際にビルやマンションといった建物に防水工事をおこなう場合には、選択肢として様々な工法があります。
以下に、代表的な工法を特徴とともにご紹介します。
シリコン塗装
こちらは「塗装」であるため厳密には工事の範ちゅうには入りませんが、建物に比較的安価で防水効果をもたらす代表的な方法のひとつとなるため、ご紹介します。
シリコン塗装では、すでにヒビ割れが起きている箇所や起きる可能性がある部分などにシリコン塗料(シリコン樹脂塗料)を塗布し、雨水が内部へ侵入することを防止します。
シリコン塗料は屋上や屋根のほか外壁にも使うことができ、また汚れがつきにくく季節によって変動する様々な天候・気候への抵抗力も期待できることから、防水目的だけでなく建物の耐久性向上や、外観の劣化防止など、様々な目的で選択されます。
防水目的によるシリコン塗装では、一般的なシリコン塗料よりも防水性が優れる代わりに耐用年数がやや短めとなる、弾性シリコン塗料が選ばれることもあります。また、あくまで塗料であるため、小さなヒビ割れ程度であれば表面化せずに防ぐことができますが、すべてのヒビ割れを常に防止できるというわけではありません。
塗装の耐用年数を把握しておき、定期的に塗装を更新したり、また高耐久の塗料を選んだりといったことも検討しておくことが大切です。
ウレタン防水
比較的安価におこなえる防水施工方法として、広く普及している工法です。
ウレタン防水では、液体状のウレタン(ポリウレタン)樹脂を工事箇所に塗り重ねることで、防水層を形成します。ウレタンは柔軟性と耐衝撃性を兼ねそなえた素材であり、施工したあと一定時間で化学反応による硬化が起こり、液状からゴムのような材質へと変化します。施工部分へ高い密着力で定着するため、段差や凹凸、曲面がある箇所などでも継ぎ目なくきれいに施工できます。
また、ウレタンの特徴として防音性に優れているという面もあり、吸音効果をもたらしたい設備の壁や床などに使われることも一般的です。
塩ビシート防水
塩ビシート防水では、塩化ビニル樹脂で形成されたシート型の防水材を、防水したい床や壁部分などに接着剤(密着工法)や機械(機械固定工法)といった方法で貼り付け、防水層を形成します。
塩化ビニル樹脂はプラスチック素材の一種であり、防水性や耐久性に大変優れているため、配管のパイプなどにも多く使われています。
あらかじめ形成されているシートを施工箇所に直接密着させるかたちとなるため、耐風圧性にも優れている一方で、下地の影響を受けやすく、例えば下地が多く水分を含んでいたり、複雑な凹凸があったりする場合などには不向きなケースもあります。
FRP防水
FRP防水では、ガラス繊維などの強化材で補強されたプラスチック(繊維強化プラスチック)によって施工部分に塗膜層を作り、高い防水効果をもたらします。
塗膜の硬化速度が速く、防水効果を高めるために何層も塗り重ねるような場合でも1日単位など短期で施工を完了でき、また成型性も柔軟であるため、公園の遊具や浴槽、プールや人工池、温泉施設など様々な場所で使われています。
アスファルト防水
アスファルト防水は従来から広く使われている防水工法の一種で、合成繊維不織布で形成されたシートに液状のアスファルトを染み込ませたものを、施工箇所に貼り重ねることで防水層を形成します。
厳密には、アスファルト防水では主に3種類の工法からいずれかが選択され、工法には熱を使わずに防水層を貼り合わせできる「常温工法」、トーチバーナーでシートをあぶり、溶かしながら貼り付ける「トーチ工法」、溶融釜であらかじめ溶かしたアスファルトを用いてシートを積み重ねていく「熱工法」があります。
いずれの工法でも、アスファルト防水は特に広大なスペースへの防水施工に適しているため、学校やマンション、工場や商業施設など大きな建物の屋上や屋根で採用されることが多くなっています。
防水目的で建物の補修を検討すべき周期はどのくらい?
一度防水工事をおこなった建物において、次にどの程度の周期で新たな工事をおこなうべきかについては、どのような工法を選択したかによって変わってきます。そのため、各工法における耐用年数を把握しておくことが大切です。
ただし同じ工法であったとしても、どのような気候・環境下での建物なのか、また例えばシリコン塗装においてどのような結合(原子結合)が含まれる塗料を使ったかなど細かな条件によって実際の耐用年数は変わってくるため、正確なところは施工を依頼した事業者にあらかじめ確認しておくとよいでしょう。事業者によっては、一般的な耐用年数目安よりも長く効果をもたらすための、特殊な原材料や技術を採用している場合もあります。
なお、一般的な範囲での各工法の耐用年数はおおむね以下のような範囲となりますので、参考情報のひとつとなさってください。
・シリコン塗装……7~15年ほど
・ウレタン防水……8~15年ほど
・塩ビシート防水……10~15年ほど
・FRP防水……10~12年ほど
・アスファルト防水……15~25年ほど
※工法技術や使用素材など、諸条件によって異なります
建物への防水工事は、予算と施工箇所、目的に応じて適した工法を選択
大切な建物を雨風から守り、外側だけでなく構造部分などまで含め全体的に劣化を防ぐためには、適切な防水工事を定期的におこなっておくことが大切です。
ひとくちに防水工事といっても、施工箇所や目的、使える予算などによって様々な選択肢があります。オーナー様のご都合や建物の状況を細かく相談しながら、適切な工法を選びたいという場合にはぜひ修繕専門店へお気軽にご相談ください。